幼い頃から家族ぐるみでよく通っていた洋食屋。高校生になってからは、健司と二人で度々訪れていた。
健司とはなんとなくずっと一緒にいるけれど、恋人同士ではない。ただの幼なじみ。もう腐れ縁と言ってもいいのかもしれない。
健司の目の前に運ばれてきたのは、大盛りのオムライス。中身はバターライスとチキンライスのどちらかを選ぶことができて、健司はチキンライスを選んだ。てっぺんには旗が刺さっている。
「もうこんなので喜ぶ歳じゃないのにな」
健司は旗を引っこ抜くと、「いただきます」と小さな声で呟き、それは口に入るのかという量をスプーンで掬った。
かわいい顔にかわいい食べ物、それに不釣り合いな量と大きすぎる一口。顔は幼い頃の面影を残しているのに、いつの間にか私とは違う生き物に変わってしまったのだと実感する。
「ん」
ナポリタンをフォークに巻き付けながら健司をぼんやりと眺めていたら、オムライスが乗ったスプーンを差し出された。
「何」
「食べたいんだろ」
貴重なチキンを入れてやったぞ、と誇らしげな顔。そうじゃない、と思ったけれど、もう一度「ん」とスプーンを差し出されたので、大人しく口に入れる。ちゃんと私が一口で食べられる量だった。
「おいしい」
「よかった」
「ねえ、こういうこと他の女の子にしない方がいいよ」
「するわけないだろ」
健司は、さも当然という顔で視線をお皿に戻して、自分用に大きな一口を掬った。もう片方の手でメニュー表を取り、サイドメニューを眺める。
私のナポリタンはまだ半分以上残っているのに、健司のオムライスはもう三分の一以下の大きさになっていた。
「急いで食べなくていいからな」
「どんだけ食べるの……」
「練習後は腹が減るんだよ。せっかく来たんだし、ナマエも少し食べろよな」
私の返事を聞かないままサイドメニューをいくつか頼み、これだけは食後に、と季節限定のいちごパフェを追加する。メニューをなぞる健司の指先を眺めながら、私はあることに気がついた。
「いちご好きだろ。今しか食えないぞ」
「……いちごだけじゃないじゃん。健司が頼んだの、全部私が好きなやつ」
健司のスプーンを奪って、オムライスを口に運ぶ。そういえば、健司はバターライス派だったな。
「子どもの頃からずっと好物変わらないよな」
「なに、どうしたの今日」
「なんか暗い顔してたから」
「何があったか聞かないんだ」
「言いたかったら自分から言うだろ」
「今ちゃんとチキン食ったか?」と確認しながら、運ばれてきた唐揚げに勝手にレモンをかける。優しいんだか、自分勝手なんだか。でも、昔と変わらないそういうところが、私の心を軽くする。健司は気づいていないだろうけど。
「ねえ、またいちご狩り行こうよ。昔よく行ったとこ」
「おー、いいな。どっちが多く食えるか競争な」
昔はいつも引き分けだった。健司も同じことを思い出しているのだろうか。今はもう勝敗はわかっている。健司はそんな勝負をわざと仕掛けて、幼い頃と同じ悪戯っ子の笑顔を見せた。
大好物