「ん、なに?」

 隣に座る神くんの、大きくて薄い耳たぶに触れる。
 耳は、特別な関係でなければ触れることができない箇所のひとつだと思う。身体はもちろん、心も近づかないと触れられないから。

「触りたくなっちゃった」
「こら、くすぐったいよ」

 神くんはやんわりと言葉で制したけれど、抵抗はしなかった。私に心を許してくれているのだと感じて、じわりと胸が暖かくなる。

「ふふ、あと少しだけ」
「もう……」

 私より大きな神くんが、小さな右手にされるがままになっている。なんだかかわいい。うれしくて、わくわくして、悪戯心がむくむくと芽を出した。

「神くん」

 わざと甘えるような声で呼ぶと、大きな身体がぴくっと震えた。

「神くん、かわいい」
「……かわいいは、うれしくないよ」

 手首を掴まれ、耳たぶから指が離れる。神くんの顔が近づき、咄嗟に目を閉じた。

「う」

 ちゅ、と鼻の頭に唇が触れる。目を開くと、にっこりという表現がぴたりと合いそうな笑顔をした神くんが視界に入った。

「唇にされると思った?」
「あ、えっと」
「耳まで真っ赤。かわいいね」

 長い指が私の耳たぶに触れ、さっき私がしたようにすりすりと撫でられる。私の手首を掴んでいた方の手は、私が再び悪さをしないように指を絡め取っていた。

「神くん、やだ、恥ずかしい」
「さっきの仕返しだよ」

 悪戯心の芽はすっかり摘み取られ、今度は私がたじたじになってしまう。負けず嫌いの神くんは、私にやられっぱなしではいてくれない。