現在、午前0時。なんとなく外の空気を吸いたくなって、麦茶片手にベランダでぼーっとしている。引き戸が開く音がして振り返ると、お風呂上がりの彰くんがつっかけを履いている最中だった。

「どこに行っちまったかと思った」
「ごめん」
「んーん。何してんの?」
「外の空気吸いたくて」
「そっか」

 町はとても静かで、耳に届くのは夏の虫が鳴く声と、エアコンの室外機の音だけ。たまに、遠くで走っている車の音が聞こえた。生ぬるい空気のせいで、麦茶と氷が入ったグラスは水滴に覆われている。指先が冷たく濡れる感覚に、心地良さを感じた。
 彰くんは何を言うわけでもなく、私の隣に立っている。

「彰くん、寝ないの?」
「ナマエちゃんがここにいるならオレもいる」
「そう」

 彰くんとのこういう時間、けっこう好き。
 周りの建物のあかりがぽつぽつと消えていくのを、ふたりで静かに眺めた。私たちを取り巻く世界は、もうすぐ真っ暗になる。

「なんだか、彰くんとふたりきりで世界に取り残されちゃったみたい」
「ナマエちゃんとなら悪くねーな」

 彰くんが笑う。彰くんがいるそこだけ、ほわっとあかりが灯ったような気がした。